還暦ダイアリー

いつの間にか還暦に。されどまだ還暦、人生カウントダウン始まらず

舞台【ラッパ屋第49回公演『七人の墓友』】

内容

ラッパ屋第49回公演『七人の墓友』
 ラッパ屋創立40周年記念、 紀伊國屋ホール開場60周年記念
 2024年6月30日(日) 千秋楽 紀伊國屋ホール
 ◎脚本・演出 鈴木 聡 
 ◎出演 
  岩橋道子 弘中麻紀 俵木藤汰 宇納 佑 ともさと 衣 中野順一朗 浦川拓海
  おかやまはじめ
  桜 一花 林 大樹 磯部莉菜子
  熊川隆一 
  松村 武(カムカムミニキーナ) 谷川清美(演劇集団円)
  大草理乙子 武藤直樹 岩本 淳
  木村靖司

自分は演劇が好きなのだろうかと自問

昔、演劇の公演にハマって、かなり観てました。
きっかけは2~30数年前のある日曜日、何とはなしにふらっと寄った下北沢の駅前劇場で上演中だった、関西の小劇団、立身出世劇場(主宰は関秀人)の東京公演。

これがめちゃくちゃ面白くて、それ以降、演劇の沼にハマり、かなりの数の有名無名劇団の舞台を観劇。日本一のコメディエンヌ、高田聖子さんの舞台などが好きでよく行きました。
主に小劇場演劇と、準商業演劇っていうのか、池袋サンシャイン劇場やシアター・アプル、本多劇場などキャパ多めの劇場を使う劇団公演が中心。商業演劇は森光子さんの『紙屋町さくらホテル』初演一本だけしか行ったことがない(この作品では劇場ロビーをふらふらしていた井上ひさし先生からサインをいただいた思い出がある)。

今の役柄からは想像もできないエキセントリックな
キレキャラだった惑星ピスタチオ佐々木蔵之介さん

しかしながら、まだ自らが舞台に立ちたいと思わなかったところに理性が残っていたのでしょう、観劇数が増えると共に、最初の立身出世劇場の体験に匹敵、凌駕する公演になかなか当たらないことに気が付いた。特に高いチケット代を取る準商業演劇に苦手意識が出てくる。○星○○○チオ、劇団新○○、キ○○○ル○○○ス、第○舞台などなど。
たまに心奪われる公演はあった(例えば惑○ピ○タ○○の耽美的な舞台『レコンキスタ』など)。でも、それ以外は演者さんたちのアツい芝居が感覚的に自分の中に入ってこない。舞台上は派手な立ち回りが繰り広げられているのに、ついつい寝てしまった公演もあったほど。
演劇にハマりはしましたが、結局は玉石混交・・・と書くのは失礼になるのでやめますが、作り手の想いが少なくとも自分まで響くことが少ないと気が付いたわけです。これは劇団や脚本家がどうと言っているわけではなく、自分の感性の問題。つまり実は演劇がそんなに好きじゃないかもしれないということ。未だに結論は出てませんが。
以降、プツリと舞台観劇から遠ざかりました。それはちょうど、新宿のシアター・トップスが閉館した頃と重なるような気がします。

劇団ラッパ屋

しかし、唯一、劇団ラッパ屋だけは別で、劇場から足が遠のいた以降も毎年毎年、案内が届くと、発売日に予定を入れないようにして、チケット取りのテクニックを駆使しつつ、ツバが飛んでくるような前の方の良席を確保するほど楽しみにしています。
ラッパ屋しか行かなくなってからの演劇舞台は、佐々木希さんの初舞台『ブロッケンの妖怪』(これも商業演劇でした。2015年日比谷)と、知り合いが所属する劇団の公演に2~3回行っただけ。

(追記)まだあった。AKB48の10期生(卒業済)の美しすぎるアイドル、入山杏奈さんがヒロインとして出演した、宅間孝行プロデュースのタクフェス公演『歌姫』と、佐藤二郎プロデュースの舞台『はるヲうるひと』を観劇してました。

鈴木聡

劇団ラッパ屋の主宰、演出の鈴木聡先生は、ラッパ屋以外の舞台演出や脚本を手掛ける一方で、かつてはコピーライターとして有名CMを手掛けたほか、テレビドラマの脚本も手掛けています。特に2本のNHK朝の連続テレビ小説竹内結子さんヒロインの『あすか』と、榮倉奈々さんヒロインの『瞳』が記憶に残る。

『あすか』は数回観ただけですが、趣味兼副業のエキストラで何度もNHKのスタジオやロケに足を運んだ『瞳』のほうは、ほぼ全話観ています。これは・・鈴木先生の脚本なら手放しで褒めたいところですが素直につまらなかった。
恐らくNHK側が提示したストリートダンスと下町人情という、異種過ぎるテーマの合体と、ストリートダンス関連の魅力が伝わらず、朝ドラの命とも言えるヒロインへの共感度を著しく下げたことが敗因のように思えます。

『七人の墓友』

さて、前置きが長くなってしまいましたが、今回のラッパ屋公演は、2014年に俳優座のために書いた脚本を、今回ラッパ屋で再演した『七人の墓友』です。

他劇団のための脚本ながら、まるでラッパ屋のメンバー(客演の松村武さん、谷川清美さんは既にラッパ屋レギュラー)を想定してアテ書きしたような台本です。

舞台画像は下記Yahooニュースから拝借

ラッパ屋第49回公演『七人の墓友』開幕 鈴木聡「あらゆる世代の方に見て欲しい」(ぴあ) - Yahoo!ニュース

鈴木先生の脚本は、時事、世相をうまく取り込むことで、単なる人情ばなし、お笑いに留まらない深みが与えられています。一方で2011年上演の『ハズバンズ&ワイブズ』でしたか、さすがに東日本大震災に寄りすぎたように思える年もありましたが。
今作『墓友』は一種の終活がテーマなのでしょう。
長年連れ添った夫婦でありながら、「あなたと一緒のお墓に入りたくない」と言い出す妻、実の父親より、上司である奥さんの父親と同居したがる長男、ゲイであることをカミングアウトする次男、そして不倫関係を断ち切れず、40過ぎても結婚しない(子供を産まない)長女という、普通そうで普通ではない家族。
そして妻は朗読会を通して、同じ墓に入ると約束することで独居老人たちの寂しさや不安を紛らわせてくれる『墓友』の仲間になっている。
政府がLGBT理解法を無理矢理ねじ込んできたり、日本の戸籍制度を破壊しかねない夫婦別姓がいつ通されるかわかったもんじゃない昨今は、家族のカタチや男女の関係の線引きが曖昧になりつつあり、初演の10年前と比べると、背景がよりリアルになっています。
物語は、そんな令和の家族感、令和の老人関係、(あと、令和のお寺もだ)の渦中に突然放り込まれた昭和の遺物、カミナリ親父を巻き込んでの騒動となります。

そして最後の「ありがとう」の重さ。崩壊しかける家族感や人間関係を、本来あるべき真の人間関係へ戻す魔法の一言。ワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』における最後の終止和音に匹敵する重要さがありました。

上演台本、買いました

また、終幕間際の場面で全員が喪服で集合する既視感がよかった。先に書いた朝ドラの『瞳』でも、初回から喪服で大喧嘩してたように覚えてます。『凄い金魚』の何度目かのリバイバル上演を希望。

また、鈴木聡先生は何十年もの間、毎公演で入場時と退出時にロビーに立ち、お迎えとお見送りを欠かさず実行されています。ありがとうございます。

 

以上