『思いつきで始めました』と舞台上の挨拶で語ったカマクラシック・オーケストラの主宰、阿部晶太郎氏は何と19歳の大学生。思いついてすぐ、まだオケのメンバーがゼロだった時点で鎌倉芸術館小ホールを押さえてしまった。
失敗を想定しない若さに驚くが、『鎌倉好き』という条件だけでブラームスの交響曲を演奏できる数のメンバーを集め、600の座席を満席にしてしまった実績、さらに自治体の後援まで取りつけ、鎌倉市長に指揮をさせるという企画面での秀逸さも光った。
自分がこのオーケストラの演奏会を知ったのは今週に入ってから。X(Twitter)でフォローしている現代音楽のスペシャリスト、指揮者/作曲家の阿部加奈子さんの告知で知ったわけで、つまり阿部晶太郎氏は甥っ子さん。
藝大からパリ国立高等音楽院に学び、欧州を中心に活躍する叔母の姿を見ていれば、カマクラシック・オーケストラを立ち上げるに至る行動力も納得できます。
少し話は脱線して、阿部加奈子さんのこと。
昨年、コヴェントガーデン王立歌劇場にて、小澤征爾氏に続いて2人目の日本人という指揮者デビューを果たしています。大変優れた音楽家であると同時に、音楽家同士の交流も広く、欧州で才能が認められたという意味でも小澤氏と似ているかもしれません。X(Twitter)には日本で再会したというファビオ・ルイージ氏とのツーショット写真なども載ってました。
そして昨年9月、新日本フィルの公演で『悲愴』を聴いています。作曲家で指揮者というと脊髄反射でピエール・ブーレーズの音楽をイメージしてしまいがちですが、それは良い意味で裏切られ、慟哭の悲愴とでもいうのか、情の深い演奏に心揺さぶられました。そして第4楽章終了後、相当長い時間振り向かずにいた、あのような『間』を経験したのも初めてでした(客席からも拍手なし。客も大したもんだ)。
後日、新日本フィルの別の演奏会後のアンケートに阿部加奈子さんを再び招聘してくださいと書いてます。
5/18には県立音楽堂で神奈川フィルとの『英雄』があるのですが、この日は自分にとっての特異日で、行きたい演奏会がいくつも重なっていて、迷った末に井上道義さんと日本フィルのラスト公演を選んでしまいました。すいません。
あとYouTubeにあると思うのですが、パリ国立高等音楽院時代の苦労話も一聴の価値があります。
話は本題へ戻ります。
鎌倉芸術館の小ホールは初めてでした。なかなかに直線的な音響のごまかしが効かない難しいホールのようで、演奏もアマチュアオーケストラによくあるスリリングさがある一方で、木管からはいい音が聴こえてきたり。
でも、客席から期待したいのは音楽に対する真摯さと熱量。それは指揮者、佐藤有斗さんがご自分の音楽をこのオケから引き出せているかがひとつのモノサシになると思うのです。
そのへんの実際はご本人しかわからないとは思うのですが、少なくとも客席には、いずれの曲も佐藤さんが自在に振る指揮(と中本空さんのピアノ)で、堂々とした山田耕筰、及びモーツァルトとブラームスの音楽が響いておりました。
[追記]
思い出したので追記。
群響所属のプロ奏者でコンサートマスターの塩加井ななみさん、ブラームスの最後の音を弾ききった直後のしてやったり的な表情が印象に残っています。あの瞬間、楽員全員がその想いを共有していたのではないでしょうか。
まずは、第1回演奏会が大盛況であったこと、おめでとうございます。
しかし第1回の盛況はご祝儀。阿部氏の真価が問われるのは次回以降。関係者は見てないと思うのですが、勝手に企画を考えました。
① シン・ゴジラが鎌倉に上陸した記念、伊福部昭音楽祭。締めはシンフォニア・タプカーラで。盛り上がります。もちろんゴジラのテーマ音楽も。
② 鎌倉芸術館がある松竹大船撮影所跡地にちなんで、松竹映画音楽特集。聴きたい曲が2つ。佐藤勝氏作曲の映画『皇帝のいない八月』のシンフォニックな音楽、そしてそしてそして、映画『砂の器』の名曲、菅野光亮氏作曲のピアノと管弦楽のための『宿命』を是非。一曲目もしくはアンコールに『男はつらいよ』のテーマも入れたりして。ただし、著作権が生きてる曲ばかり。権利関係が面倒で実現は難しそうですね。