還暦ダイアリー

いつの間にか還暦に。されどまだ還暦、人生カウントダウン始まらず

『英雄の生涯』について【NHK交響楽団第2005回定期公演(2/9金)】

リヒャルト・シュトラウス

 

リヒャルト・シュトラウスの音楽が好きです。

昨秋、ヘンリック・ホッホシルト氏(ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団コンマスで、パシフィック・フィルハーモニア東京の特別主席コンマス)がプロデュースした室内楽演奏会で、晦渋な『メタモルフォーゼン』(七重奏版)を楽しんだほか、ここ2年くらい、何度か演奏、上演されたアルプス交響曲と楽劇『サロメ』を都度聴きに行ってます。

サロメではジョナサン・ノット/東京交響楽団によるコンサート形式上演が素晴らしく、昨年の『エレクトラ』は都合で行けなかったのですが、当日の予定が微妙ながら今年予定されている『ばらの騎士』には是非行きたい。

叙事詩的なサロメと異なり、舞台の視覚情報がない『ばらの騎士』がどうなるか興味津々。熱のこもったノットの指揮から予測するに、やはり終幕の三重唱では泣けてしまう予感。また、楽しみな秋の二期会影のない女』の愛好会向けチケット発売開始も待っています。

そのほか、彼が若いころに書いたロマンティシズムほとばしる一連の室内楽がとても良作ぞろいで好んで聴きます。特にピアノ四重奏曲を聴いていると、戻れない若かりし時代を思い出して、これもまた泣けてきます。(この曲はまた別の機会に紹介することにします)

 

英雄の生涯

 

そんなリヒャルト・シュトラウス好きな自分ですが、二つだけ避け続けていて聴かない曲があります。

それは『英雄の生涯』と『家庭交響曲』で、少し詳しい方ならすぐに理由がわかると思います。つまり、これらはシュトラウスが自分のことを書いた曲。

しかし、今般『英雄の生涯』をN響定演で聴くことになったので、意を決してこだわりを翻意、今年になってからルドルフ・ケンペ盤を除く有名演奏(カルロス・クライバー海賊盤含め)をことごとく聴きまくりました。

(話が逸れますが、一番感銘を受けたのはフリッツ・ライナー盤ですかね。演奏内容もさることながら1954年のステレオ録音(RCA)の素晴らしさたるや)

さて、曲を聴きまくって判ったことは、この曲は結婚してから僅か4年、34歳の若きシュトラウス(享年85歳)が奥様のパウリーネに宛てた、愛情が溢れるお手紙だということ。

曲の中心は英雄の主題の展開がカッコいい第1部ではなく、第3部の『英雄の伴侶』じゃないかと思う。あくまで個人的な仮説ではありますが。

全編を通しで聴いても、冒頭部のカッコよさよりも、『英雄の伴侶』における、我儘な音を鳴らす独奏ヴァイオリンと、重く唸り時に否定(Nein!)する管弦楽との掛け合いから続く甘い展開に聴き入ってしまいます。多分、あのくだりには二人にしか解らない符丁があるんじゃないかと思いますね。

そのパウリーネはしかし、19世紀末のクサンティッペかというほど、性格が率直でいて始終機嫌が悪く、しかも風変わりな悪妻であったとされてます。ただ、シュトラウスとの結婚生活は幸せだったそうで、しかも彼の作品の多くにインスピレーションを与えたとのこと。

英雄の生涯』は、タイトルから受ける印象が強いですが、内容はそんなパウリーネに宛てた、生涯よろしく、というお手紙だと自分は感じた次第です。

パウリーネ・デ・アーナ。バイロイトでも歌うソプラノ歌手だった

 

NHK交響楽団第2002回定期公演(2/9金)について

 ワーグナージークフリート牧歌

 リヒャルト・シュトラウス交響詩英雄の生涯

 

本日の指揮を担った大植英次さんは、90年代半ば、何の曲だったかミネソタ管弦楽団との録音と共に、急に名前が広く認知されるようになりました。その後大阪フィルの音楽監督になったのかな、そして遂に日本人としては初めてバイロイト音楽祭で『トリスタンとイゾルデ』を振るという快挙を成し遂げます。

以降しばらく名前は聞かなかったように思うのですが、ここ数年はまた見かけるようになり、本日は実に25年ぶりのN響定期公演復帰の初日ということでした。

 

最初のプログタム、ワーグナーの『ジークフリート牧歌』を聴くと、ヴィスコンティの映画『ルートヴィヒ(神々の黄昏)』での初演シーンを思い出します。映画では、階段の音楽と言われている通り、ワーグナー邸の階段に陣取る楽団員が演奏を始めると、息子のジークフリートを抱いた奥様のコジマが驚いて出てくる。

この曲がコジマの誕生日祝いに書かれた愛情と平和感に満ちた曲であることは周知の通りで、もし、先の『英雄の生涯』における私の仮説、曲は奥様のパウリーネへの愛情がこもったお手紙だという説が正しいとしたら、本日のプログラムは、最愛の奥様へ捧げられた2つの名曲を組んだナイスな選曲だったということになるのですが、どうだろう。

英雄の生涯』では、最後の優しい独奏ヴァイオリンの奥様に看取られて生涯を終える場面で素直に感動いたしました。

良い演奏を聴いたあとの余韻冷めやらぬままホールを出ると、TBSのクルーが何やらインタビューしてます。まさか大植さんの特集じゃないよなとか考えながらスマートホンを取り出すと、ウチの奥様からのメッセージで「小澤征爾さんが亡くなった・・」と。

駅までの道すがらホロホロと泣きました。

三階席より。コンマス(独奏兼)は郷古さん。サブの位置にまろさんがいる