還暦ダイアリー

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映画【ピアノ・レッスン (4Kデジタルリマスター版)】@TOHOシネマズシャンテ

第66回アカデミー賞を作品賞、主演女優賞、助演女優賞アンナ・パキン)の3部門で受賞し、第46回カンヌ国際映画祭パルム・ドールをも受賞した1993年公開の映画『ピアノ・レッスン』(原題:The Piano)は、女流映画監督のジェーン・カンピオンが脚本も手掛け、ホリー・ハンター(エイダ)、ハーヴェイ・カイテル(ベインズ)、サム・ニール(スチュアート)が出演したフランス、オーストラリア、ニュージーランド合作映画です。

この映画、映像は美しい(少し暗い)のですが、登場人物たちの内面は決して美しいとは言えません。おそらく劇中にあえて何度も映す、ぬかるんだ泥濘がそのへんを暗喩しているのではないかと思う。まさか、日本語で不倫劇を形容するどろどろの、という表現を監督が意識したとまでは考えてませんが。

初公開当時に宣材の絵づらの美しさだけで観に行って、内容のショッキングさに驚いた方が多かったのではと推測いたします。
実は自分もその一人。
ただ、初公開当時は観ておりません。レンタルでもサブスクでも。この4Kでの再公開が初見となります。
もともとマイケル・ナイマンの音楽が好きで、この映画の音楽を編み直した彼のピアノ協奏曲などを愛聴しておりましたが、映画そのものにはさしたる興味もなく、もちろんストーリーなどは気にしたこともありません。
今年になって再公開すると聞き、スクリーンで観られるならと、海辺にピアノが置かれた耽美なビジュアル、そして麗しい音楽だけを先入観として喜んで観に行ったたわけです。はい。

以下、ネタバレにご注意ください。

 

前半は、映像で端折られていたくだりを脳内で埋めながらの鑑賞となりました。そのくだりとは、彼女に手を出さない優しい再婚相手のスチュアートと、顔に彫り物を入れ、原住民と同化した寡黙で粗野に見えるヘインズ。何故、エイダはヘインズに惹かれたのか。
ここは直接描かれておりませんので観客が補完しなければならないのですが、考え方は千差万別でしょう。特に男性視点と女性視点では異なるのかなという気がいたします。

幼い頃に声を失った主人公エイダの心象を代弁するピアノ。
夫のスチュアートは浜辺にピアノを置き去りにしただけでなく、ピアノをヘインズの土地とのトレードに用いてしまう。
一方のヘインズは浜辺でエイダが弾く音楽に聴き入り、土地のトレードに金銭ではなく、ピアノとエイダのピアノ・レッスンを要求し、エイダはピアノを手放すことを渋々承諾、そしてヘインズの元へピアノ・レッスンに通う日々が始まる。
ピアノ・レッスンでもエイダに教わるでもなく、彼女が弾く音楽に聴き入っているだけ。そして鍵盤をひとつひとつ返却する見返りとして・・・エイダとヘインズの距離が縮まってゆく。しかし、『君を淫売にはできない』と、土地はそのまま、無条件でピアノを返却してレッスンも中止することに。
エイダは、ヘインズが彼女だけでなく、ピアノに対する理解と優しさを感じたのだと思う。これはピアノを受け取ってからちゃんと調律師による調律を行ったこと、また最期の方で小舟が転覆しそうになりながらも、ヘインズはピアノを運ぶことを主張し続けたことからも明らかです。

 

この場面はショッキングでした

後半、やがて不倫がバレて外出ができなくなったエイダは、ピアノの鍵盤の機構部を引き抜き、ヘインズへのメッセージを書いて娘に託します。ここ重要ですよね。紙に書けばいいメッセージをあえて彼女自身でもあるピアノの一部に書く。
この時点でピアノは不完全なものになった。
娘がスチュアートの元へメッセージを持って行ったために、あまりの不義に激怒した彼はついにエイダの指を斧で切り落としてしまいます。しかし、ピアノが弾けなくなってしまうのに、エイダは泣き叫びも苦痛の表情も見せません。おそらくピアノから鍵盤を引き抜いた時点で既に、彼女自身も不完全になっていたのでしょう。
それよりも、あの瞬間のエイダ、いや女優ホリー・ハンターの目を忘れることができません。アカデミー主演女優賞も納得できます。

 

ラスト。あくまで個人的な感想を述べさせていただくと、ピアノと共にエイダが海に沈んだまま終わったほうが、ストーリーが綺麗に終息したと思うのです。あくまで個人的意見ですが。

あと、娘役のアンナ・パキンですが、スチュアートにメッセージを渡した時に『何てことすんだこのク○ガキ!』とつい(脳内で)怒ってしまいましたが、そう思わせたことで彼女の勝ち。若干11歳でアカデミー助演女優賞を受賞したのも頷けます。
ただ、最年少ではないですね。ピーター・ボグダノヴィッチ監督の『ペーパー・ムーン』でテイタム・オニール助演女優賞を受賞したのが10歳だったはず。そしてスクリーン上の存在感もテイタム・オニールに軍配。

いつまで上映してるのかはわかりませんが、名作であることは間違いありませんので、昨今のCGハリウッド映画に食傷気味な方にはお勧めしたい映画です。

 

TOHOシネマズシャンテにて